赤　ク　ラ　ゲ　　　　　　　　　　　　　　　　　

春だ。船縁から手を浸すと海水がぬるい。はやクラゲが姿を見せた。水晶のような透き通った身体に茶色のトラ縞模様が脈打つ。タイガースファンは喜ぶぞ。今年の大活躍間違いなし。トラユニ着込むのは赤クラゲの若い衆。突っ張った感じが初々しい。釣り針にまとい付いた彼らの足（刺胞）を素手でぬぐい取り、エサを付け替えて、また仕掛けを投じた。ぬぐった指先にクラゲ毒が付いていることをしっかり脳味噌にインプット。この手でうっかり顔をなぜたり、目をこすったりすると一大事だ。クチビルは腫れ上がり、目に激痛が走るだろう。予防するには手を海水でよく洗っておくこと。だが面倒だ。朝方お姫様（ヒメオコゼ）が一匹釣れて以来、その後はなにも釣れない。ボートは瀬の潮上(しおかみ)絶好位置にもやってある。ここで釣れないわけはない。絶対に釣れると信じて疑わないが、世の中に絶対ということが絶対にあり得ないのもまた事実。　

縦網(たてあみ)漁の小型漁船がやってきて

「おっさん、ここに網入れるで、ほかで釣ってくれェー」と言った。

「よっしゃ、代わりに釣り方教えてくれぇ！」と大声で返事。

「ワシャ、網はやるが、釣りはしたことないでョー」と漁船。

魚探画面に突然魚群が現れた。漁船も魚探をにらんでいた。二人して「うわぁ〜来た、来た！」と歓声。私は大急ぎで釣り糸を繰り出し、漁船は網を張り巡らした。

だが、魚群は、つつがなく通過。イカナゴの集団だ。

帰宅途上の車中、うっかり片目をこする。ウオー！☆＊★